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東京高等裁判所 昭和40年(く)109号 決定 1965年10月08日

少年 S・T(昭二二・一二・二〇生)

主文

原決定を取り消す。

本件を東京家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年の家庭は少年が働いて家計を維持し母親を養うべき立場にあり、また少年には結婚を約束した女性があつて妊娠しているおそれもあり、少年は鑑別所にいて一生懸命勤めたにもかかわらず、原決定が少年を中等少年院に送致した処分は不当であるというのである。

よつて検討するに、少年はS・K、S・Y子の第三子として出生したが実父Kは早くから所在不明、長兄O、次兄Uも別居して音信のない状況で少年が母親を養い家計を維持していくべき責任を負つていること所論のとおりであるが、だからといつて少年を中等少年院に送致した原決定が著しく不当な処分であるということにはならない。況して実母Y子も病弱とはいいながらも四五歳で○○製作所の工員として勤務しているのであるからなおさらというべきである。また結婚を約束した女性が妊娠しているおそれがあるといつても、そのことから直ちに少年を中等少年院に送致した原決定を取消すべき事由があることにならないことはいうまでもないことである。さらに、少年が鑑別所にいて一生懸命勤めたにもかかわらず中等少年院に送致した処分は不当であるというに至つては、その趣意を理解するのに苦しむ程であつて、これを理由として原決定を取消すことはできない。所論にいう事由はいずれも直ちに原決定を取消すべき理由とはなり得ないのである。しかし飜つて考えてみると、少年は昭和三九年一二月恐喝未遂、銃砲刀剣類等所持取締法違反事件により審判不開始になつているだけで在宅のままで保護された経験を有していない。それに本件事犯も足踏自転車一台を窃取したというだけで微罪と評すべきであり、既に賍品も被害者に仮還付され、実害を生じていないのである。少年には幼時に若干の非行があつたことはうかがわれるが、これも欠損家庭で母親が常時勤務にでていて家庭における保護指導が不十分であり加えて貧困であつたことが大きく災いしていたものと認められる。もつとも少年が家出して不健全な生活を送つたことが直接少年を本件非行へと導いたものであり、根本的には少年の意思が弱く持続性に欠け気分の変り易い性格に根ざしているとも考えられ、非行への傾向は相当に強く予後は楽観を許さないものがあるが、少年の家庭に対する責任感、更生への意欲も認められることなど一切の事情を考慮する時は在宅のままで保護観察所の保護観察に付しその成果を検討し或は家庭裁判所調査官の観察に付しその結果をまつて施設に収容しても遅くはないと認められ、今直ちに少年を中等少年院に送致するのはいささか早過ぎるきらいがあり結局原処分は不当であるとのそしりを免れ難いのである。

よつて本件抗告は結局理由があるから少年法第三三条第二項によつて原決定を取り消して本件を東京家庭裁判所へ差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 新関勝芳 判事 中野次雄 判事 伊東正七郎)

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